まつもと市民芸術館

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芸術監督あいさつ

写真:芸術監督・串田和美

≪時間・知恵・努力≫と≪理解・期待・協力≫掛け算でまつもと市民芸術館を魅力ある文化発信の拠点に

みなさん、こんにちは! まつもと市民芸術館は今年(2013年)10周年を迎えるのだそうです。早いものですねえ。ついこの間のような……いえいえ僕の実感からすると、もう随分遠い昔のことのようにも感じます。

僕が呼ばれてきたのが2003年の4月、建物が完成する1年前です。そして竣工式が2004年3月21日、1週間前に市長が新しく変わったばかりでした。

この1年間は、僕にとって初めて体験することだらけでした。みなさんよーくご存知のことですが、芸術館建設に対して反対する人たちの声が高まっていたのです。僕はやって来たばかりで、その人たちとたくさん話をしました。市議会というものにも出席しさまざまな質問に答えなければなりませんでした。理不尽だと感じることも多々ありました。けれど不思議なことに、とてもポジティブな、前向きな予感のようなものが湧くのを感じていました。理屈で説明しようとしてもうまく説明のつかないある種の感覚、「風が吹いている……」と感じたのです。自分のように演劇をやってきた人間が、「この風を信じないでどうするんだ?」と思えたのです。

「みなさんよーくご存知のこと」と書きましたが、10年前となると、あの頃はまだ子供だったからよく覚えていないという人もいるでしょう。その後この土地にやって来た人もいるでしょうね。なんだか忘れたいと思っている人もいるかもしれません。でもね、少しザラザラしたあの時期の記憶は私たちにとって、とても大切なものだったと思うのです。今、まつもと市民芸術館が頼もしく10周年を迎えられるのは、あの時吹いていた風の力だと思うのです。そしてその風は今も吹いていると感じます。

2004年3月21日が竣工式でしたが、それから開館に向けての準備を経て、劇場としての開場は8月29日でした。ですから以下、芸術館の誕生日は8月29日かなあと思っています。と言っても8月はいつもサイトウ・キネン・フェスティバル松本(SKF)の真っ最中、慌ただしいさなかなので思い出す暇もありませんでしたが、あの日は、大ホールではオペラ『ヴォツェック』の初日、同時に小ホールでは僕の演出した『スカパン』の初日、シアターパークにはオペラを観たお洒落なお客さんと、スカパンを観た若いお客さんがごっちゃになっていました。そうなんです。そんなふうな劇場になるといいなあと思ったのですよ。

2013年の10周年記念プログラム

あれから、いろんなことをやってきましたが、僕には呑気に後ろをふり返っている暇はないので、これから先の計画やビジョンについてお話しましょう。

まず6月には、世界の児童文学発掘プロジェクト in MATSUMOTO『太陽と月と泥棒と』という公演があります。実はこの台本のもとになっているのは、僕が19歳の時に書いて、1回だけ上演したものなのです。何年か前に高校生のころの友人が「覚えている?」と言って台本を持ってきてくれたのです。茶色くなったわら半紙に手書きのガリ版刷りのまま、外側を丁寧に製本してくれたものでした。50年前!読んでみると、今の自分と何も変わっていないようで、情けないような嬉しいような複雑な気持ちになりました。その本を演出を担当する加藤直さんに見せると、すかさず「これをやろう!!」ということになってしまったのです。やれやれです。恥ずかしいような嬉しいような、です。

そして、7月は2013年度版『空中キャバレー』です。2011年に上演した『空中キャバレー』は、こちらの思いを超えて随分評判が良かったのです。それはもちろん僕だけの手柄ではなく、出演者やスタッフたちだけの手柄でもなく、そこに集まった松本のお客さんたちの存在、感受性が、なんだか奇跡のような時空を作りだしたのです。そしてそこに居合わせた松本以外からのお客さんたちもそのことに感動して、みんながツイッターなどの口コミで評判を広めてくれたのです。『空中キャバレー』は、これから発展させていきたいと目論んでいる夏のフェスティバルの中心になるといいなあと思っています。

それから8月。SKFのなかで一昨年から始めたストラヴィンスキーの『兵士の物語』。これまではフランスの演出家ロラン・レヴィさんが演出しましたが、今年は僕がまったく新しく演出をします。前回観た方も、観ていない方も楽しみにしてくださいね。

10月は例の芸術館オープニングの作品『スカパン』を9年ぶりに再演します。初心を忘れまいという思いと同時に、9年経った僕自身が演じるスカパンを、9年経った松本のお客さんに観ていただきたいという思いでいっぱいです。

12月には市民オペラの『カルメン』があります。一昨年白井晃さんが演出した『魔笛』は市民オペラというものの在り方を提示した素晴らしいものでした。僕はあれを観て、ただの真似ごとではない、松本の市民による松本独自の市民オペラの姿が見えてきたと嬉しくなりました。

そして年が明けて2014年3月、これも僕にとってとてもとても大切な作品を上演します。発表までには、もう少し待っていてくださいね。

その後、同じく3月、今年に続いて、市民のみなさんがつくる、まつもと演劇工場(シアターファクトリー)の公演があります。この演劇工場の企画は、芸術監督を引き受けた時から強く想っていた構想のひとつでしたが、やっと動き出すことができたのです。これがもっともっと発展して、日本ではめずらしい姿勢の新しい演劇学校になっていったらいいなあと思っています。つまりプロを目指す俳優も、自由な発想のアマチュアも、また演劇を通してさまざまなことを学ぼうとするあらゆるジャンルの人も共存し、お互いが刺激し合えるような、学び合えるような「場」ですね。

松本の夏に目論んでいる、文化のお祭り

もうひとつの構想はフェスティバルです。フランスには南仏の地方都市アヴィニョンの演劇フェスティバルがあるように、英国にはスコットランドのエディンバラフェスティバルがあるように、その国では小さいけれど文化的に優れた、魅力的な地方都市にみんなが注目する豊かなフェスティバルがあったらいいと、ずっと思っています。そう、以前歌舞伎公演をしたルーマニアのシビウという町のフェスティバルは、今ヨーロッパでもっとも注目されています。ちょうど松本と同じくらいの人口ですが、ルーマニアは日本よりずっと経済的には貧しい国です。それでも地方都市のシビウが文化的に素晴らしい発信をしていることで国中に希望が生まれているのです。ですが、よその国と日本とはいろいろな面で条件が違いますから、ただ真似をしても成立しません。日本は日本なりの、松本は松本なりの独自の工夫と夢の持ち様を探さなければならないのでしょうね。そしてそのことこそが文化というものなのでしょうね。

小澤征爾さんが長い年月をかけてつくり上げてきたSKFと、中村勘三郎さんが身体を張ってみんなを惹きつけた「信州・まつもと大歌舞伎」と、「まつもと街なか大道芸」や「空中キャバレー」、松本から生まれる新しい勢い、さらにいろんなところから集まってくるいろんな人びと、それらが一緒になった文化のお祭りを夢見ています。

もうひとつ大切な、松本のプロの劇団「TCアルプ」のことをお話します。彼らはもう5年前になるでしょうか、それまで僕が北海道を中心におこなってきたシアターキャンプというものを、この松本で開いた時に集まった若者、僕が教えていた日本大学芸術学部出身者や、松本で生まれ育ったプロの俳優を目指す若者たちを中心にスタートしましたが、今はそれを聞きつけていろんなところから集まっています。彼らはここ松本で演劇をつくっていくことに新しい可能性を確信し、修練しています。TCアルプが独自の魅力的な表現集団となって、松本の人たちに愛され誇りに思ってもらえるようにならなければなりません。彼らこそが(もちろん僕もその一員なのですが)松本の演劇を中心とした文化を牽引していかなければならないからです。 そう、「まつもと演劇工場」と「TCアルプ」そして「フェスティバル」、これが10周年を迎えるまつもと市民芸術館構想の3本柱です。

あとはそうですね、芸術館の空間をもっとみんなの自由な交流の場になるように活用してほしいですね。それには2階のシアターパークと呼ばれている広い空間でいつも何かが行われているようにしたい。別に大げさなことではなく、シアターパーク、イコール劇場公園ですからね。誰かと誰かが出会ったり、友達になったり、新しい企みを見つけたり、わいわいやったり、内緒話をしたりね。シアターカフェも一緒に、その時々で姿を変える楽しい空間にしたいなあと思っています。それこそみんなが参加して、みんながつくりだすパークになると良いですね。

当館の広報誌「幕があがる。」も、楽しみにしてくれている人たちが増えています。欲張って、このホームページも開くのが楽しみなものにしようと話しています。

ああ、もっともっと時間も知恵も努力も必要です。そして何よりみなさんの理解と期待と協力が必要です。かすかでも確かな風が吹いていることを感じる感性や心根が大切です。

まつもと市民芸術館 芸術監督
串田和美


写真:芸術監督・串田和美

PROFILE

串田和美 くしだ・かずよし 1942年8月6日生まれ

1942年生まれ。俳優、演出家、舞台美術家。まつもと市民芸術館芸術監督。当館を拠点に活動するTCアルプ座長。

1966年、斎藤憐、吉田日出子らとともに劇団自由劇場を結成(後にオンシアター自由劇場と改名)。代表作である『上海バンスキング』『もっと泣いてよフラッパー』など数々の作品で人気を集める。1985年~96年まで東京渋谷のBunkamuraシアターコクーン初代芸術監督を務める。2003年4月、まつもと市民芸術館館長兼芸術監督に就任(現在は芸術監督)。
主な作品に『コーカサスの白墨の輪』『幽霊はここにいる』『グリム・グリム・グリム』『西の国の人気者』『ネコの星』、串田和美+白井晃プロジェクト『ヒステリア』『ジャックとその主人』『ピランデッロのヘンリー四世』『エドワード・ボンドのリア』、5年がかりで手掛けた『K.ファウスト』など。また、2008年に『夏祭浪花鑑』、2010年に『佐倉義民傳』で平成中村座、2012年に『天日坊』と、市民を巻き込んだ一大イベント、「信州・まつもと大歌舞伎」を開催。2011年からはサイトウ・キネン・フェスティバル松本との共同制作『兵士の物語』に出演、北京および上海公演にも参加(2013年再演)。2011年11月にはサーカスと音楽と演劇を散りばめた『空中キャバレー』を演出し、大好評を得る。
2011年はNHK朝の連続テレビ小説「おひさま」に出演し話題を呼んだ。2007年に第14回読売演劇大賞最優秀演出賞受賞、2008年4月に紫綬褒章受章。

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