更新日 2007/05/23

音楽だけでもないみたい-<ヴィーン音楽物語>ができるまで-

ヴィーンを歩く

funatsu002-01.JPG東京暮らしが長かったせいか大都会は好きではない。歩こうと思えば駅から松本城でもこのまつもと市民芸術館でも信州大学でも、街の主な場所にはどこへでも歩いていける松本は快適な規模で大好きである。その意味で、ヴィーンは例外的にもどこへでも歩いていける快適感のある大都会なので大好きなのである。オペラ座での観劇の後、旧市街で食事をしてワインバーでちょっと飲んで歩いて帰宅が可能なウォーキング・ディスタンス都市。芸術館で楽しんだ後、中町あたりで食事して最後に裏町でちょっと飲んで、という感覚かな。

funatsu002-02.JPGfunatsu002-03.jpgさて、2003年6月、オーストリアでは建国以来はじめてという終日ゼネストに遭遇した。年金受給者の増加と年金を支える人口の減少による年金システム破綻の危機に対して、政府が年金受給年齢の引き上げと減額を決定したことへの抗議であった。そもそも建国以来ゼネストがなかったということにも驚いた。

しかしなによりも私にとって深刻だったのは当日の夕方、ムジークフェライン(楽友協会)でのポリーニのピアノリサイタルがあるのだ。普段なら安いチケットしか買わないのに、だ~い好きなポリーニ様、奮発して高~い席を購入していた。ホールはもちろん公演は予定通り行うと言う。当時私が住んでいたのは、ちょっと郊外のヴィーンの森近くのフラット。会場までの足が問題なのだ。ヴィーンっ子にとっても未経験の事態であり、公共交通機関はストップしても、まあタクシーは動くだろうと友人はいう。ところが当日、タクシーを呼ぼうと電話をしてもどこの会社にもつながらない。外へ出てみると、車の大渋滞、まったく動いていない。

「こうなりゃ歩いていくきゃない!」普段は路面電車に乗っているが、それこそ歩けないことはないヴィーンなのだ、と覚悟を決めた。ハイヒールからドタ靴に履き替えて、腕時計を気にしながら、私としてはトップギアーで歩きに歩いた。会場までの四分の三くらいは歩いたろうか、開演時間と勝負に少々悲観的になりかかった時に、幸運の女神、空タクシーがキーっと止まってくれた。

さてコンサート会場、私がこんなに苦労したのだから、辿り着けない人も多いのだろうな、と予想していたのに、空席なし。さすがポリーニ。特にその晩のショパンの「子守歌」は感動的で私の歩き疲れた足をも癒してくれた。ウォーキング・ディスタンスの大都会ヴィーンは大好きだ。

写真1:ムジークフェライン正面
写真2:シュターツオパー正面
写真3:ヴィーン市内(シュターツオパーからケルントナー通りをのぞむ)

プロフィール
船津恵美子(ふなつ・えみこ)
桐朋学園大学音楽学部卒、同助手、愛知県立芸術大学講師などを経て、インド古典音楽を学ぶため3年間インド留学。またヴィーンにて市立図書館所蔵のシューベルトの自筆譜の研究に従事。現在信州大学非常勤講師。「まつもとオープンカレッジ」の講師として、オペラ講座や連続講座「モーツアルトの楽しみ方」を担当。

バックナンバー
  1. ヴィーンへのお誘い2007/05/16
  2. ヴィーンを歩く2007/05/23
  3. オリジナルの響き2007/05/30
  4. ああ、私のフランツ!2007/06/06

連載記事一覧

最終更新日 2007/11/10
最終更新日 2007/11/14
最終更新日 2007/11/15
最終更新日 2007/11/12

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