更新日 2007/06/19

うたかた日記

芝居の歓び

稽古が進むにつれて、メンバーの芝居に対する意気込みにバラつきが出てくる。もっと稽古しないと、とてもお客さまに観てもらえるものにならない、しかもお金を頂戴しているのだとイラだつ人たち。一方、これ以上稽古が増えると日常生活がメチャクチャになってしまい、家族から反対されるし、体力も限界だとグチる人たち。

両者の折り合いをつけるのが難しい段階にさしかかった。ここをうまく乗り越えないと集団はバラバラになってしまい、舞台は息づいてこない。

芝居がめんどうなのは、自分ひとりがどんなにがんばっても良い結果が得られないところだ。相手役とのやりとりを通してしか自分は舞台に存在できない仕組みになっている。そこが他の表現と質的にまったく異なっている。そもそもスタンドプレーが成り立たないジャンルなのだ。

ほんの一場面でもいい。相手役とのやりとりを通して、相手がいるからこそ自分がここに立っていられることを実感してほしい。そして、いちばん嬉しいのは、昨夜ひとりであれこれ考えた役の思いを相手役にぶつけたとき、それをしっかりと受け止め、そのうえで、相手役の気持ちを適確に返されたときの歓びだ。これを一度味わってしまうとメンバーに対する細々とした不満は吹き飛んでしまう。芝居は病みつきになると言われるが、この開放感がたまらないからだと思う。

これに似たことは日常生活でもしばしば起こり得る。だから、何だかんだといってもやっていられる。しかし芝居は、他のことは全部虚構だが、この歓びだけは本物である。というより、この歓びを純粋培養する実験室が芝居なのだ。

“自己責任”という冷えびえとした言葉が溢れている昨今、その対極にあるのが私たちの集まりだと思う。

プロフィール
堀内博(ほりうち・ひろし)
信州大学演劇部「山脈」OB。東京を拠点にする劇工房「燐」に在籍。役者歴40余年。昨年からピカデリーホール支配人。松本市在住。

バックナンバー
  1. セリフとことば2007/06/12
  2. 芝居の歓び2007/06/19
  3. 高齢者のねばり2007/06/26
  4. 若者に敗けるな!!2007/07/03

連載記事一覧

最終更新日 2007/11/10
最終更新日 2007/11/14
最終更新日 2007/11/15
最終更新日 2007/11/12

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