更新日 2007/06/20

人生を演じきる

名刺と俳優

僕は今年で26歳になりますが就職経験はありません。昨年『幽霊はここにいる』という舞台で人生経験の無さを痛感した思い出があります。

男(弁護士)が女の子に名刺を手渡すシーンで、若手俳優たちは名刺の渡し方の作法を全く知らなかったのです。勿論リアルであれば良いという事ではないでしょうが、名刺の渡し方1つ知らない自分に戸惑った記憶があります。こんな風に社会というものを知らない自分に罪悪感を憶えるのです。

例えばNTTのCMで奥深い森や深海に電話線のケーブルをひいている作業員を見たとき、六本木にいる現代の赤ひげと呼ばれるロシア人の老医師のドキュメンタリーを見たときなど、そういう瞬間は年々増えて来ています。

でもこの仕事を志していて良かったと思うこともあります。

以前友人から「会社の上司が朝から下ネタを話して来るんだけど、俺はそんなことを話すために会社に早く行っているんじゃない。」と相談を受けたことがありました。そのときに僕は「もし僕がその人の役を演じるなら」といって彼に話をしました。久しぶりに入った新入社員、世代の差があり何を話していいか分からず、男の共通言語と信じている下ネタを先輩の威厳を失わないように話し掛けている、愛すべき彼のことを。

演技をするということは想像力が必要なことだと思います。普段ならば絶対に友達になれない奴の役を貰うと彼のことをじっくり考えるいい機会になります。なぜそんなことを言うのか、そんな行動を取るのか。そういう視点で他人を見るときっともっと愛せるようになるのではないでしょうか。

舞台を見ていただくことでそんな発見もしてもらえると嬉しいなあと思うのです。『田舎奇談』のカローシンなんかまさにそうですよね。彼を見続けるうちに段々愛すべき人に思えてしまう。

ところで僕が相談を受けた友人ですが、その後その上司と仲良くなり、彼が都合で退社する際にはひどく残念がってくれたそうです。

プロフィール
細川貴司(ほそかわ・たかし)
1981年高知県生まれ。日本大学芸術学部演劇学科(演技コース)卒業。大学入学時に観たワークショップ公演『にぎやかなゆりかご』(串田和美演出)に感銘を受け、在学中より串田和美に師事。大学卒業後、『コーカサスの白墨の輪』『アルルの女』に出演。2007年4月から松本に移住し、まつもと市民芸術館トライアウト公演『田舎奇談』に出演。次回作は7月の同館トライアウト公演『罪と罰』。

バックナンバー
  1. 初湯千両と猿田彦神社2007/06/13
  2. 名刺と俳優2007/06/20
  3. コーヒーミルと親友の娘2007/06/27
  4. 土佐てんと親孝行2007/07/04

連載記事一覧

最終更新日 2007/11/10
最終更新日 2007/11/14
最終更新日 2007/11/15
最終更新日 2007/11/12

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