更新日 2007/07/25

ぼくのそばにあるもの

涙のブロッコリー

割烹に勤めていた頃、任された仕事のひとつに「青み」をゆでる仕事がありました。肉じゃがなどの煮物の色彩バランスを美しくするために欠かせない、和食にとっては大事な仕事です。野菜によって、ゆで方、時間などが全て違うため、よく親方に怒られました。

あるとき、魚介のマリネに入れるブロッコリーをゆでていました。宴会と一般オーダーと仕込みをやりながら、マリネのブロッコリーをゆでていたのですが、他の仕事が忙しく、うっかり長くゆでてしまいました。親方はそれを見逃すはずもなく、刺身を引くそのままの体勢で足だけが飛んできて、「新しくゆで直せ!」と怒鳴られてしまいました。…当然です。言いわけできるはずもありません。

ところが、そんなときに限ってストックがなく急いで買いに行くことになり、店を出た途端、熱いお茶の入ったやかんを蹴飛ばしてしまい、足にかかってしまいました。やけどしてるはずなんですが、「ブロッコリー優先」と思っていたせいかあまり感じず、その日は無事にブロッコリーの一件もかたづき、終わりました。

休日のある晩、食卓に出された料理の中に、ゆでたブロッコリーがありました。何も手を加えていない塩ゆでブロッコリーです。

その頃の私は、仕事に使っていた食材は観るのも嫌なほど、仕事が大嫌いでした。ですが母が「美味しいから食べな」としつこく言うので、食べました。…そのブロッコリーはゆで過ぎな上、水で冷やしてあるはずなのにとても温かい味がしました。そして食べながら大泣きしてしまったのです。今の自分に一番欠けているものを見つけた瞬間でした。

嫌いとかマイナスなことを思うと必ず見失う「愛情」という気持ちです。

それ以来、ブロッコリーへの接し方が変わりました(当然それだけではないですが)。今でもブロッコリーを見ると、あのときの記憶が甦ります。

私にとって大切な思い出のひとつです。

プロフィール
内藤栄一(ないとう・えいいち)
1983年生まれ。23歳。松本市に生まれ育つ。まつもと市民芸術館『水の話』に参加、演劇の世界に魅了される。以降、ワークショップ「シアターキャンプ」や『田舎奇談』などに参加。松本にいながらにして本物の刺激を味わえている、幸せ者な夢見る若そば打ち職人。

バックナンバー
  1. あの頃の上司に感謝2007/07/11
  2. 沼エビに教えられたこと2007/07/18
  3. 涙のブロッコリー2007/07/25
  4. 私のお父さん2007/08/01

連載記事一覧

最終更新日 2007/11/10
最終更新日 2007/11/14
最終更新日 2007/11/15
最終更新日 2007/11/12

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