アヴァンギャルドな住まい

今も江戸の面影が色濃い真田十万石の城下町、長野・松代はコンパクトで散策にぴったりの街だ。そこに豊かな感性を忍ばせた武家屋敷が残っている。
優に200年は経つという美しい茅葺屋根の旧横田家住宅(国重文)。母家と隠居屋をずらして並べ、中にも外にも圧倒的な奥行き感がある。

質素だが空間は魅力的だ。茅葺の裏がそのまま見える高い天井に目を奪われたかと思うと、次には周りに満ちている静かな光に気づかされる。低く深い軒で一旦絞られた外光の粒子たちが、畳と茅天井の細かいひだを無邪気に走りまわって伝ってくるのだ。しかも庭の色と香りをたっぷりと吸い込んで。
そんなこんなしていると、ずば抜けた一撃が待っていた。深い軒を支える縁側の一本の柱。厚く重そうな屋根が軒先で研ぎ澄まされ、そこに細い柱が絡まるだけのシンプルな意匠(素敵な日本語です。形への「意尽くし」という深いニュアンスを感じます)。
背景の樹木と対照的なこの柱、錦秋には風景を引き締め、雪の日にはさぞかし凛と振舞うんだろうな…などと想像が勝手に遊行をはじめる。古いのにこの質感はとても斬新だ。
ふとデンマークの近代家具デザインの父コーア・クリントの言葉を思い出した。「デザインソースを過去の名作に求め、それを現代の生活に合うようリ・デザインするのは有効な手段だ。」技術も科学も情報も全てが200年前より進化した現代において、果たして今の住まいはこの家を超えているだろうか。
プロフィール
大石幹也(おおいし・かんや)
松本市美術館でマネージメントを担当。1956年松本生まれ。大学で都市と建築をかじり81年松本市役所入所。2004年11月から現職。自称建築フェチ。美術館を小さな街として捉え、静かな賑わいづくりを目論んでいる。
バックナンバー
- ホワイトスペースは美味しく2007/07/23
- 思いがけない出逢い2007/07/30
- アヴァンギャルドな住まい2007/08/06
- 「地」というスペース2007/08/13