STORY3
【オペラ版】踊り疲れたアンナは、エビネンスキーをホールに残し、涼しい風にあたろうと幾人かの紳士淑女が談笑しているテラスへ出た。ベンチに腰掛けていると、シャンパンを片手に、背筋がぴしっと伸びた英国の老紳士、ライスビーチ氏がテラスに出てくるのが見えた。
「ここに座っても構わないかね。」
「ええ、もちろんですわ。どうぞ、お掛けになって。」
そんなわけで、アンナはライスビーチ氏が大切にしている思い出をひとつ聴かせてもらうことになった。
もう60年以上の昔になるが、私は、豪華客船の船乗りだった。世界一周航海の途中、中国から日本まである少女を乗せることになっていました。当時彼女は11歳、これが妻との出会いだったのですよ。
「なんて素敵なロマンスなのでしょう。」
いやいや、彼女は、ヒロシマというところに住むことになっていてね。大きな爆弾が落ちた後とは知っていたのだが…。
結婚後のあるとき、彼女は私に病気になっても手術などはしないで欲しいというのですよ。当時の私には理解できないことでしたが、10年前に妻を亡くすときには、すべて分かっていましたよ。彼女は覚悟していたのです。
「・・・。」
ライスビーチ氏はグラスの中に妻との幸せな日々を浮かべ、アンナに向かって杯を上げた。
【対訳版】
9月某日。リハーサル室は鏡張りだ。銀色のカーテンが開かれて、向こう側にも同じ部屋が見える。おのれの醜い姿は、当然ながら見たくはないのだが、幸か不幸か、最後列に配置されている我が組の場合、稽古中に自分達の全身を見ることは難しい。
ダンスを部分的に芝居っぽく始めることになったが、小須田先生の指示は、あくまでも紳士と淑女、大人の雰囲気である。
「あぁ、もう。すぐにぶりっこ風になっちゃう。」
可愛くもないぶりっこを人に見せてもねぇ。まずは日常を紳士淑女の振る舞いに正す必要ありだ。大事な場面で、気付かずに田舎びた三枚目を演じていなければ良いが。
もう60年以上の昔になるが、私は、豪華客船の船乗りだった。世界一周航海の途中、中国から日本まである少女を乗せることになっていました。当時彼女は11歳、これが妻との出会いだったのですよ。
「なんて素敵なロマンスなのでしょう。」
いやいや、彼女は、ヒロシマというところに住むことになっていてね。大きな爆弾が落ちた後とは知っていたのだが…。
結婚後のあるとき、彼女は私に病気になっても手術などはしないで欲しいというのですよ。当時の私には理解できないことでしたが、10年前に妻を亡くすときには、すべて分かっていましたよ。彼女は覚悟していたのです。
「・・・。」
ライスビーチ氏はグラスの中に妻との幸せな日々を浮かべ、アンナに向かって杯を上げた。
【対訳版】
9月某日。リハーサル室は鏡張りだ。銀色のカーテンが開かれて、向こう側にも同じ部屋が見える。おのれの醜い姿は、当然ながら見たくはないのだが、幸か不幸か、最後列に配置されている我が組の場合、稽古中に自分達の全身を見ることは難しい。
ダンスを部分的に芝居っぽく始めることになったが、小須田先生の指示は、あくまでも紳士と淑女、大人の雰囲気である。
「あぁ、もう。すぐにぶりっこ風になっちゃう。」
可愛くもないぶりっこを人に見せてもねぇ。まずは日常を紳士淑女の振る舞いに正す必要ありだ。大事な場面で、気付かずに田舎びた三枚目を演じていなければ良いが。


