更新日 2007/11/12

薄墨色の時間

音のない風景

灰月は通り沿いの2階にあります。北向きの大きなガラス窓から、陽のあたる反対側の通りがよく見えます。ドアを閉めていると、車の音も聞こえず静かな空間です。お客様が途切れて緊張が緩んだ瞬間、ふと窓の向こう側に目をやると、静かな街の風景が見えてきます。

お客様に丁寧に頭を下げて見送るお店の人、その脇を自転車で走り抜けてゆく人、不思議なファッションの人や犬の散歩をする人等々。信号が変わるたびに動いたり止まったりを繰り返す車の列も重なって、音のない風景はリズムよく過ぎてゆきます。

こうした街をしばらく眺めていると、全体がまるでひとつの速度で動いているように見えてきます。各々動くスピードは違うはずなのに、不思議に静かな一体感があります。街のリズム、とでも呼べるものでしょうか。考えてみると、歩道を歩く、自転車で走る等の日常的なスピードに極端な違いはなく、特に音が聞こえてこない風景では、ゆったりと全体がまとまって見えるようです。

その街が持つ空気やリズムと言ったものは、一日をそこで過ごす者にとってはとても大切な感覚です。街と人も相性が良いに越した事はありません。どういう訳か、学生時代の私は自分が将来暮らしたい街のイメージがはっきりとありました。それは「中心に大きな公園や、お城かお寺があって、近くに川が流れている静かな街」というものでした。

なぜそういう具体的なイメージを持ったのか、理由はもう覚えていないのですが、不思議にも現在の私の暮らしにぴったりと重なっているです。

その条件を強く求めてたどり着いた訳ではなく、様々な理由によってこの松本へやってきたのですが。まあ、主要都市はたいてい寺町か城下町で、日本は川も多いですからどこに行っても似たような環境だったかも知れません。それにしても巡り合わせというものでしょうか、自分でも長い事忘れていた事が現実になっている事に驚きます。
 
そんな訳でここは、私にとっては理想の街という事になります。まだまだ知らない景色はたくさんありますが、仕事の手を休めて見る街のリズムは、疲れた気持ちを心地良く再生してくれます。生まれた土地を離れて松本で暮らすようになった私は、この「音のない風景」を眺めながら、日々街への愛着を深めていったように思います。

プロフィール
滝澤充恵(たきざわ・みつえ)
東京出身。武蔵野美術大学卒業。縁あって長野県人となり、ギャラリー経営に参加する。2000年独立し、クラフトギャラリー「ギャルリ灰月」を立ち上げ2001年松本に開業する。「暮らしの道具」をテーマに、陶・木・ガラス・染織・金属など、さまざまな素材の作家作品を販売している。月に2回のペースで企画展も開催している。

バックナンバー
  1. しあわせのイメージ2007/11/05
  2. 音のない風景2007/11/12

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最終更新日 2007/11/10
最終更新日 2007/11/14
最終更新日 2007/11/15
最終更新日 2007/11/12

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