更新日 2007/11/19

薄墨色の時間

見つめ続けること

仕事柄、多くの作り手達の工房やご自宅をお訪ねする機会が度々あります。

北海道から沖縄まで、お付き合いの作家さんは全国にいらっしゃいます。

素材も様々、住む場所も違えば、工房の環境もそれぞれ違ってきます。工房をお訪ねする理由は、もちろん仕事の依頼と共に、作り手が何を見てどのように感じ、どう暮らしているのか、作品の裏側を知りたいという仕事上の好奇心なのですが、もう一つ、一人のファンとしてその暮らしぶりを覗いてみたいと言う単純な興味からくるものもあります。

工房と言う生活の場所とは違う空間を必要とする作家の皆さんは、田舎の自然環境の良い場所に暮らしている場合が多く、はじめて見る景色も訪問の楽しみの一つです。

お訪ねすると、敷地内にある仕事場へ行く前にリビングに通されます。ご家族がいる場合は、団欒の様子が伝わってきて、微笑ましくなります。テーブルの上に置かれた、ご自身の作品以外の器やグラス、他暮らしの道具等、次から次へ興味は尽きません。本棚や飾り棚などにいろいろなものが飾られていて、ついじっと見つめてしまうのですが、あまりジロジロ見ては失礼と思い直して、好奇心を抑えます。それでも、さりげなく置かれた小物に作家の意外な一面を見つけたり、並んでいる数々の本から共通の好みを見つけたりと、楽しい発見がありワクワクします。

そんな事を話題にしながら一時お茶を頂いた後、工房へ案内していただきます。

工房は、家族の共通の場所としてのリビングと違い、作家自身の考えが顕著に投影されます。壁に貼られた写真や小さなメモ、注文の紙、仕事をしながら聞くCD等々、空気が凝縮されたように感じます。

整理して置かれた大小の道具は、目をつぶっても解るくらい手順良く動いて行くだろう事を窺わせ、たくさんの試作品は、いろいろな方向へ揺れ動いた、それまでの仕事の軌跡が見えてきます。何を表現したかったのか、どんな事を考えてこれを試作したのか、様々な事が頭を巡ります。とっさには言葉が出てきませんが、ここで黙々と手を動かしている姿を想像して、少しずつ変化して今がある事を知り、また新しい変化を見せてくれるだろう期待が湧き、次に作品が届くのが楽しみになります。

時間にすると短い訪問ですが、とても大切なものを分けて頂いたかのように、有り難い気持ちで興奮します。

訪問によって、普段のお付き合いの中では見る事が出来ない、家族やあるいは一人で過ごす時間の別の顔を知る事は、あらためてその作家に親しみを覚えると同時に、この先、この作り手がどのように変化してゆくのか、それを見続けたいという私自身の気持ちが固まる瞬間でもあります。

その作家の作品が好きという事は、その作り手をずっと見つめ続けるという事。

そしてまた、私自身も彼等に見られている事を忘れないでいなければならないという事なのです。

プロフィール
滝澤充恵(たきざわ・みつえ)
東京出身。武蔵野美術大学卒業。縁あって長野県人となり、ギャラリー経営に参加する。2000年独立し、クラフトギャラリー「ギャルリ灰月」を立ち上げ2001年松本に開業する。「暮らしの道具」をテーマに、陶・木・ガラス・染織・金属など、さまざまな素材の作家作品を販売している。月に2回のペースで企画展も開催している。

バックナンバー
  1. しあわせのイメージ2007/11/05
  2. 音のない風景2007/11/12
  3. 見つめ続けること2007/11/19

連載記事一覧

最終更新日 2007/11/10
最終更新日 2007/11/14
最終更新日 2007/11/15
最終更新日 2007/11/19

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