芸術監督団

芸術監督団 団長/芸術監督[演劇部門] 木ノ下裕一

わたしたち監督団の任期は、ひとまず一期三年(最大二期)のお約束ですから、早いもので、もう一期の三分の一が過ぎたわけです。

監督団は折に触れて(だいたい1~2ヶ月に一度のペースで)会議を開き、芸術館のこれからについて話し合ってきました。これがすこぶる楽しい時間なのです。

たとえば、木ノ下が「障害のあるひとにも楽しんでもらえる公演をしたいんですよね」と言えば、倉田さんが「それやったほうがいいやつやで!木ノ下さん、もう今までの創作に飽きてるんやと思う」と鋭く後押ししつつも、「私もこのあいだ……」と少年刑務所にダンスのワークショップに行った日のことを話してくれる。すると石丸さんが「実は、歌や音楽を持って病院をまわるのをライフワークにしたいんですよね」と言い出し、木ノ下が「石丸さん!それいい!絶対やってください!」と言う。万事そんな調子です。

生まれた場所も、ジャンルも表現も、作品の質感も全く異なる三人なのに、お互いの考えていることや、その奥に在る願い(のようなもの)がよくわかる。そしてそれを「面白い!」と心から思える。何かを“表現する”時の動機がとてもよく似ている三人なんだと思います。“以心伝心”ってこういうことを言うのかもしれません。

さて、私たちは二期の初年までを三つのタームに分けて考えています。2024年度は、なんといっても「はじめまして!」の年。監督団のことをまずは松本のみなさんに知っていただこうと、演劇、ダンス、コンサート、それぞれの“本業”の公演を中心にしてプログラムを組みました。

今年2025~26年にかけては「飛び出す!」がテーマです。くしくも、今年度から芸術館は大規模改修に入ります。それを逆手に取って好機到来!今度は私たちが、松本市のいたるところに出向いていって、文化や芸術や、その熱を届ける番です。ゆえに、劇場外の活動が増えていきます。

私たちのスローガンは一貫して「ひらいていく劇場」ですが、まだ芸術館に足を運んだことのない方、来たくても来ることができなかった方にもどんどんひらいていきたい。ちなみに改修後リニューアルオープンの年である2027年は「集まる!」がテーマ。これまで劇場内外で出会った方と新しい芸術館で盛大に再会したいと考えています。

“ひらいていく監督団”の真価が問われるのは、今年から二年間だと思ってます。輪をどこまで広げていくことができるのか。わくわくしつつ、気持ちを引き締めています。

プロフィール

写真:芸術監督団 団長/芸術監督[演劇部門] 木ノ下裕一

木ノ下歌舞伎主宰。1985年、和歌山市生まれ。
小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受け、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。代表作に『娘道成寺』『夏祭浪花鑑』『義経千本桜—渡海屋・大物浦—』『糸井版 摂州合邦辻』など。2016年に上演した『勧進帳』の成果に対して、平成28年度文化庁芸術祭新人賞を受賞。第38回(令和元年度)京都府文化賞奨励賞受賞。NHKラジオ第2『おしゃべりな古典教室』のパーソナリティーを務めるなど多岐にわたって活動中。まつもと市民芸術館ではこれまでに数々の作品の上演を行うほか、「信州まつもと大歌舞伎」では補綴(台本の再編集)や作品の解説を行う「歌舞伎ナビ」を開催するなど、松本市との関わりも深い。