芸術監督団

芸術監督団 団長/芸術監督[演劇部門] 木ノ下裕一

たとえば、松本駅の立ち食い蕎麦屋で、タクシーの中で、ふらっと入ったカフェで、「これから、まつもと市民芸術館に行くんです」と何気なく言うと、「ああ!私もよく行きます!」とか「二年おきに歌舞伎がやってくるんですよ」とか「市民オペラに参加してます」とか「立派な建物ですよね、残念ながら行ったことはまだないんですけど……」など口々におっしゃる。

すごいことだなと思います。みなさん、わが街に劇場があることをよくご存じで、誇りに思ってらっしゃる方も少なくない。もちろん現在も、芸術館の在り方については様々な意見もあるとは思いますが、街の象徴の一つになっていることに違いありません。

まつもと市民芸術館は、まぎれもなく〝松本のみなさんの劇場〟なんだということを実感しています。それは、串田和美前芸術監督をはじめ劇場職員と市民のみなさんが20年間、少しずつ積み重ねてきた時間と関係性の賜物でもあります。

この春、発足する私たち芸術監督団は、そんな〝松本のみなさんの劇場〟を大切にお預かりして、育てていきます。

「ひらいていく劇場」というフレーズを掲げました。

開く=オープンな劇場へ
拓く=新しい領域への挑戦
易く=難しいことをやさしく
啓く=文化芸術を啓蒙
披く=松本で作った作品を発信

五つの〝ひらく〟でより多面的な劇場を目指していきます。

同時に、これまで劇場にご縁のなかった方、行きたくてもいけなかった方にもひらいていきたいと考えています。たとえば、障害があっても文化芸術を楽しむことのできる鑑賞サポートなどのアクセシビリティにも力を入れていきたいです。

倉田翠さん、石丸幹二さんという素晴らしいチームメイトを得て、ジャンルも個性も異なる三人だからこそ、より大きな視野と広がりを持つことができるでしょう。
「みなさんの劇場」から、より「みなさんの〝ため〟の劇場」へと進化していけるように、そのためにできることは、すべてやっていこうと心に決めています。

プロフィール

写真:芸術監督団 団長/芸術監督[演劇部門] 木ノ下裕一

木ノ下歌舞伎主宰。1985年、和歌山市生まれ。
小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受け、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。代表作に『娘道成寺』『夏祭浪花鑑』『義経千本桜—渡海屋・大物浦—』『糸井版 摂州合邦辻』など。2016年に上演した『勧進帳』の成果に対して、平成28年度文化庁芸術祭新人賞を受賞。第38回(令和元年度)京都府文化賞奨励賞受賞。NHKラジオ第2『おしゃべりな古典教室』のパーソナリティーを務めるなど多岐にわたって活動中。まつもと市民芸術館ではこれまでに数々の作品の上演を行うほか、「信州まつもと大歌舞伎」では補綴(台本の再編集)や作品の解説を行う「歌舞伎ナビ」を開催するなど、松本市との関わりも深い。