『或いは、テネシーワルツ』出演、佐藤卓さん・下地尚子さんインタビュー公開!

5月31日(水)から旧幸町保育園(松本市埋橋1-8-13)で上演する『或いは、テネシーワルツ』
絶賛稽古中の佐藤卓さん・下地尚子さんにインタビューをいたしました。

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――稽古も中盤に差し掛かりましたが、参加してみていかがですか?
佐藤:串田さんはもちろん、直さんの演出公演も「月と太陽と泥棒」や「まつもと演劇工場」で経験しています。台本通りにきっちりやっていくのかと思ったけど、稽古が始まったらそうではなかった(笑)。4月末に東京で稽古が始まって、台本があるのに「(お芝居の素材を)なんか持ってきて」と言われました。東京稽古では台本を土台に、ここが面白いからこうしたいと思ったり、ここはこうだとどうだろうと考えることができたかな。でも、お二人の知識量と経験量に敵わないからこそ、ただ役のことを考えるだけでなく、同じ視野でいないと稽古場にいられない。生意気と思われても何か言っていかないとないと、埋もれていってしまうから足掻いている。それくらいハイレベル。
下地:稽古当初から今もずっと話し合いをしながら稽古をしているけど、稽古場にいる人たちが串田さんのことも直さんのこともよく分かっていて、そんな関係性だからこういうつきつめた稽古ができるんだなと思ったのが一番大きい印象。
佐藤:普通は、「あのシーンがうまくいかなくて苦しい」ということがあるけど、その手前で苦しんでいる。例えば串田さんの公演は、幕が開くまでどうなるか分からなくても、幕が開けるととんでもない反響を得る作品になることがよくある。近年だと初演の「空中キャバレー」や「K.テンペスト」だったり。今回はそんな公演なような気がする。
下地:「空中キャバレー」や「K.テンペスト」はどっちも、お客さんとの距離が近い公演。今回も元保育園の遊戯室という、お客さんと近い距離の公演。劇場というある種の壁がある空間での作品となると、お客さんが外からどう反応してくるんだろうと思うけど、同じ空間のお客さんを巻き込んだり共存させたりすることを得意とする方々だから、面白くなると思う。

――串田さん主演・加藤さん演出という初めての試みについてどう思いますか?
佐藤:今回の作品は、串田さんが過去に上演していた「グリム」に似ているかもしれない。串田さんがお菓子を配りながら客席に入ってきたと思ったら、グリム童話の話をし始めて、話し終わると第三者的な意見を言ってまた別の話しに移っていって…。その中で共演者の内田紳一郎さんがいきなりそのお話に出てくる奥さんの役をし始めと思ったら、やめちゃって。芝居を見ているのかお話を聞きに来たのか、不思議な感覚になった。そんな串田さんの感覚に、直さんの演出が加わっていくとどうなっていくかなあと思う。一人ずつでは生まれないものが生まれるはずだから、それは面白みだと思う。
下地:確かに、どちらも自分の世界を持っていて、そこが重なり合う部分が面白くなるという気がします。

――役者としての串田さんはどのような印象ですか?
佐藤:串田さんが自分の演出作品以外に出演する、ということはほとんどなくて、僕は1本しか観たことがない。今回は役者として参加されているのですが、稽古を見ていると、串田さんにとって役者も演出も同じなんだなと思った。もらった役のことを考えるだけでなく、全体を考えることも役者なんだなと、今回勉強になった。
下地:私は串田さんと直接対峙する役柄は今まであまりなくて、「遥かなるブルレスケ」以来になる。串田さんは何か1つのことを考えているのかなと思うと、実は10個ぐらい考えていて。水面下では色々渦巻いているのに、表層に出し切っていないことが多い方だと、改めて実感した。

――元保育園という、今は使われていない空間で上演することについてどう思われますか?
佐藤:かつては人がいたのに今はいない、しかももうすぐ壊されてしまうというなんとも言えない空間。そのことがずっと稽古でも漂っている気がする。お芝居なのかお芝居じゃないのか。嘘なのか本当なのか。ここ(旧幸町保育園)はただの壊されるの廃墟なのかそれとも何かの入り口なのか・・・。劇場なら嘘の空間になってしまうけど、ここなら嘘が本当になってしまうような、魔法がかけられる空間だと思う。それに、劇場内でやる公演だったら、また違う話になっていただろうね。
下地:そういえば今日、串田さんが稽古場でハーモニカを吹いていたけど、何だか懐かしい気持ちになった。保育園に下見に行った時も、平均台やトランポリンとかが残されていて、それも懐かしくて、昔のように乗ってみたいなという気持ちになった。そういうものに包まれてこの公演を観ると、どういう感覚にとらわれるんだろう。年齢や生まれ育った場所は違くても、何か共通の懐かしさというものがあると思う。それを観に来てくださったお客さんとお芝居というものを介して共有できると嬉しい。私は、幸町保育園に通っていたという方に何人かお会いしました。子供がいない保育園や幼稚園という場所自体に行く機会がないし、自分の通っていた保育園に行くという機会もない中で、チラシを見て当時を懐かしがってくれて興味を持ってくれたことが嬉しかったな。

――公演を見に来てくれる皆様にメッセージをお願いします!
佐藤:直さんの作品は、物語を通じて、その先にあるをテーマを頭によぎらせる。串田さんの物語は記憶を刺激する。お二人とも目の前に起きていること以外のことをお客さんに考えさせたり、気づいたら考えていたり、空想させたりする達人。そんなお二人による作品だから、見る人の数だけ感想のある、そこが見どころに成ると思う。最初にハイレベルといったのはそういうことで、例えば順序だって泣かせるようなストーリーとは違った、なんだか気づいたら泣いてしまっていた…そんな感覚を刺激する作品になると思います。
下地:人がいなくなった空間、誰の目にも触れない空間というのは、一体そこで何が起こっているんだろうと思って、それがこの作品に通ずる気がする。今回はバス停で待っている男の話だけど、台詞で「僕のことなんか誰も気にしはないんだ」という言葉があって、そんな日陰にいるような、人は誰しも持っているだろう見せたくない気づかれたくない心の奥底に眠っている部分があるように、人それぞれの刺激される感覚が違う…そんな匂いがします。実際に、今は使われていない空間という場所で匂いや音も記憶に残ると思うので、それも感じてほしい。
佐藤:本当は子供がいるべき空間に子供がいない…それも独特な雰囲気が出るし、魔法が発生すると思う。そこにお二人が魔法をかけてくれると思う。

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『或いは、テネシーワルツ』
作・演出:加藤 直
出演:串田和美 佐藤 卓 下地尚子
5月31日(水)~6月4日(日)
旧幸町保育園(松本市埋橋1-8-13)
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